経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は国の機関である独立行政法人・中小機構が運営する制度である。自営業(個人事業主)や法人だけでなく、副業で事業を行っているフリーターや会社員も加入できる。
掛金は毎月5000円から20万円までの範囲で選べ、総額800万円まで積み立てられる。また、掛金は全額経費にできる。経費を増やし所得を減らせるため、税金や社会保険料の減額ができる。
経営セーフティ共済で積み立てたキャッシュが必要なときは解約しなくても借り入れができる。
デメリットとしては任意解約では一定の期間掛金を積み立てないと100%の金額が戻って来ない点や積み立てた掛金の受取時には所得が増える(税金、保険料が増える)点、申込みできる人が限定される点がある。
ただ、デメリットについては事前に把握しておくだけで解消できる。こうしたデメリットは解消した上で、メリットを上手く利用するのが賢いだろう。
この記事では
▶ 経営セーフティ共済のメリット
▶ 経営セーフティ共済で生じるデメリットとデメリットの解消方法
から
▶ 経営セーフティ共済への申し込み方法と経費計上の方法
まで詳しく述べていきたいと思う。
経営セーフティ共済のメリット
収入が予想よりも増えた場合、多くの人は貯金だったり、投資へとお金を回すだろう。しかし、利益を普通に残してしまうと税金が課せられてしまう。
収入に余裕があり、経費への使いみちがない時に800万円までプールできる制度として経営セーフティ共済がある。事業を行っている人は貯金や投資よりも「経営セーフティ共済」への加入を先に検討すべきだ。
経営セーフティ共済へ加入すべき理由としては
1.事業を行っている人ならフリーター、会社員でも原則加入できる
2.掛金は全額経費にできるので税金、社会保険料を減らせる
3.お金(キャッシュ)が必要な時には0.9%の金利で借り入れができる
点がある。
下記でそれぞれ詳しく紹介していく。
1.事業を行っている人ならフリーター、会社員でも原則加入できる
経営セーフティ共済へは事業所得のある人、つまり、事業を行っている自営業(個人事業主)や法人が加入できる。
フリーターや会社員など給与所得が主な人は仕事と副業の事業が異なっており、事業所得があれば加入できる。給与所得者の加入可否は経営セーフティ共済と似た性質を持つ「小規模企業共済」よりも基準が緩くなっている。
ただし、個人事業主にしても給与所得者の副業にしても、加入できるのは開業届を出してから1年以上であり、加入の際には審査もある。
経営セーフティ共済だけでなく、小規模企業共済の加入条件について更に詳しく知りたい人は下記記事を参考に。

2.掛金は全額経費にできるので税金、社会保険料を減らせる
経営セーフティ共済は掛金の全額を経費へと計上できる。毎月20万円の積み立てを行っているなら、毎月20万円を経費として計上できる。経費が増えて利益(収入)が減ることにより、払うべき税金(所得税、住民税、事業税)や社会保険料も減る。現金で持っておくよりも賢い貯め方と言えるだろう。
小規模企業共済は全額所得控除にできるため税金は減らせる。しかし、保険料は変わらない。したがって、小規模企業共済よりも経営セーフティ共済への加入を優先すべきだ。
3.お金(キャッシュ)が必要な時に0.9%の金利で借り入れができる
事業の多くは安定しておらず、長期で収益が得られるとは限らない。急にキャッシュが必要になることもあるはずだ。
経営セーフティ共済の掛金は解約しないと受け取れない。しかし、経営セーフティ共済は解約せずにキャッシュを受け取る方法として、掛金の範囲での借入を認めている。
経営セーフティ共済では30万円以上(5万円単位)で借入ができる。年利も0.9%と低金利である。払込んだ掛金が担保になっているため、審査なども不要だ。
経営セーフティ共済の借入についてくわしく知りたい人は下記ページを参考に。

経営セーフティ共済で生じるデメリットとデメリットの解消方法
経営セーフティ共済で生じるデメリットとしては
1.40ヶ月以上支払わないと払い戻し金額が減る可能性
2.掛金の受取時には収入として課税されてしまう
3.加入者は事業者のみ。収入が給与所得のみの人は加入できない
以上の点がある。
これらデメリットの解消方法について下記で詳しく紹介していく。
1.40ヶ月以上支払わないと払い戻し金額が減る可能性
経営セーフティ共済を12ヶ月(1年)以上納付すると、解約時に解約手当金を受け取れる。解約にはいつでもできる「任意解約」、個人事業主の死亡や法人の解散、分割による「みなし解約」、12ヶ月以上の掛金滞納や不正行為があった場合に中小機構が行う「機構解約」がある。
解約の理由によって、解約手当金(戻るお金)のパーセンテージが変わる。
掛金納付月数 | 任意解約 | みなし解約 | 機構解約 |
---|---|---|---|
1ヶ月から11ヶ月 | 0% | 0% | 0% |
12ヶ月から23ヶ月 | 80% | 85% | 75% |
24ヶ月から29ヶ月 | 85% | 90% | 80% |
30ヶ月から35ヶ月 | 90% | 95% | 85% |
36ヶ月から39ヶ月 | 95% | 100% | 90% |
40ヶ月以上 | 100% | 100% | 95% |
経営セーフティ共済は40ヶ月(3年4ヶ月)以上積み立てると、「任意解約」でも100%の金額が戻ってくる。個人事業主の死亡や法人の解散による「みなし解約」では36ヶ月(3年)以上で100%の金額が戻ってくる。
ただし、掛金滞納などにより「機構解約」されると40ヶ月(3年4ヶ月)以上積み立てても100%の金額は戻って来ない(95%になる)。したがって、滞納が続きそうなら早めに自主的な解約も検討すべきだ。
いずれの解約でも36ヶ月(3年)以上の支払を続けなければ、戻ってくる金額が掛金の100%以下になってしまう。任意解約の場合、12ヶ月から23ヶ月では80%である。戻ってくる金額が減ると、収入が大きい事業者でない限り、節税により効果も下がってしまう。加入で逆に損をしてしまうケースも出てきてしまうだろう。
給与所得とは違い、事業所得は波が大きい。長期で継続できるか予測できない場合もある。しかし、解約による払い戻し金額を100%に近づけるため最低額(5000円)での支払は早いうちに始めた方が良いだろう。毎月5000円程度、40ヶ月では20万円程度になるため、そこまで大きな負担にはならないはずだ。
40ヶ月以上支払を続ければ任意解約でも100%の金額が戻ってくる。最低金額で早いうちから積み立てを始めるだけで、加入で逆に損をしてしまうリスクはかなり減らせるだろう。
2.掛金の受取時には収入として課税されてしまう
40ヶ月以上支払えば、任意解約でも掛金は解約手当金として全額戻ってくる。しかし、解約手当金はその年の収入になってしまう。したがって、収入が多い年に解約手当金を受け取ってしまうと、払うべき税金、保険料を減らせるどころか、増えてしまう可能性もある。
こうした税金、保険料を増やさないためには、
①解約手当金を受け取る年はリタイア後など収入が低い年にする
②新規事業を始めるなど、年の収入が大きく赤字になりそうな年に受け取る
といった手段がある。特に、後者の赤字の年に受け取れば、税金を一切払わなくても済むかもしれない。
ちなみに、国民健康保険料は所得税よりも上限額が低いため、収入が多い年に解約手当金を受け取っても、総額での支払はあまり変わらない。たとえば、年収が900万円以上のときに、経営セーフティ共済に加入してたなら、収入がそれ以上多い年に解約手当金を受け取っても国民健康保険料は変わらない。
3.加入者は事業者のみ、収入が給与所得のみの人は加入できない
経営セーフティ共済にはすべての人が加入できるわけではない。給与所得だけの会社員やフリーターは加入できない。
給与所得しかない人が加入したいなら事業を始めて、事業所得を作るしかない。給与所得者も副業で事業をすると様々なメリットを享受できる。趣味など、現在、時間や金銭的なコストをかけてるものの「事業化」も考えてみよう。
おすすめの事業を含む、副業で稼ぐ方法については下記記事を参考に。

経営セーフティ共済への申し込み方法と経費計上の注意点
経営セーフティ共済への加入は委託団体と金融機関の本支店でできる。
委託団体
・商工会
・商工会議所
・中小企業団体中央会
・中小企業の組合
・損害保険ジャパン日本興亜株式会社金融機関の本支店
・都市銀行
・信託銀行
・地方銀行
・第二地方銀行
・信用金庫
・信用組合
・商工組合中央金庫
委託団体が近場になくても金融機関の本支店で申し込みができる。近場の委託団体か金融機関の本支店へ連絡し、加入に必要な書類などは予め用意した上で訪問しよう。
必要書類については下記ページを参考に。
著者は銀行口座を開設していた大手都市銀行の支店で手続きを行った。大手都市銀行もこれ自体大した収入にはならないだろう。しかし、丁寧に経営セーフティ共済の手続きを進めてもらった。
掛金は月額5000円から20万円までの範囲内、5000円単位で決められる。掛金の額も申込時に決める。もちろん、後日金額の変更もできる。
経費計上の注意点
毎月の掛金は法人の場合は損金、個人の場合は必要経費に算入する。1年以内の前納掛金も、払い込んだ期の損金または必要経費に算入できる。前納の期間が1年を超えるものは、各事業年度末において、期間の経過に応じて、必要経費または損金に算入出来る。
払い込んだ掛金を必要経費または損金の額に算入する場合には、下記のような所定の明細書を添付することになる。
確定申告では上記書類の忘れずに用意しておこう。
経営セーフティ共済は金銭的な余裕がある時に、将来に向けた余裕を作る制度として事業所得のある人すべてにおすすめできる制度だ。まだ加入していない事業者は少額の積み立てから始めてみると良いだろう。
経営セーフティ共済を含めた個人向けの税金対策についてまとめて知りたい人は下記記事を参考に。
